2025.08.12

FAS業界未経験者が知っておくべき転職前の基礎知識と準備

1. FAS業界とは

FAS(Financial Advisory Services)は、財務アドバイザリーサービスの略称で、企業の財務面における高度な専門的サービスを提供する業界です。具体的には、M&A(企業買収・合併)、企業再生、事業再編、リストラクチャリング、企業価値評価、デューデリジェンス、IPO支援など、企業の重要な財務戦略に関わる幅広いサービスを提供しています。

FAS業界は、Big4と呼ばれる大手会計事務所(PwC、EY、Deloitte、KPMG)のアドバイザリー部門、投資銀行のアドバイザリー部門、独立系アドバイザリーファームなどが主要なプレイヤーとして存在しています。近年、M&A市場の活発化や企業の戦略的な事業再編の増加により、FAS業界への注目度と需要が高まっています。

2. FAS業界の主要サービス領域

2.1 M&Aアドバイザリー

企業の買収・合併・売却における財務面でのアドバイスを提供します。企業価値評価、買収戦略の策定、交渉支援、統合後の価値創造支援などが含まれます。案件規模は数十億円から数千億円に及ぶことも珍しくありません。

2.2 デューデリジェンス

M&A取引において、対象企業の財務状況、事業内容、リスクなどを詳細に調査・分析するサービスです。財務デューデリジェンス、ビジネスデューデリジェンス、ITデューデリジェンスなど、様々な観点から企業を評価します。

2.3 企業再生・事業再編

財務的な困難に陥った企業の再生支援や、事業効率化のための再編支援を行います。キャッシュフロー改善、債務整理、事業売却などの施策を通じて、企業価値の回復を目指します。

2.4 企業価値評価

企業の公正な価値を算定するサービスです。DCF法、市場比較法、資産アプローチなど、様々な評価手法を用いて、M&A、IPO、相続対策などの目的に応じた価値評価を実施します。

2.5 IPO支援

企業の株式上場に向けた支援サービスです。上場準備における財務体制の整備、内部統制の構築、企業価値向上のための戦略策定などを行います。

3. FAS業界で求められるスキルと資格

3.1 必須スキル

  • ・財務・会計知識:財務諸表の読み解き、会計基準の理解、財務分析能力
  • ・企業価値評価スキル:DCF法、比較評価法などの評価手法に関する知識
  • ・Excel・PowerPointスキル:高度なExcelモデリング、プレゼンテーション作成能力
  • ・論理的思考力:複雑な問題を構造化し、論理的に解決する能力
  • ・コミュニケーション能力:クライアントや関係者との効果的なコミュニケーション

3.2 有利な資格

  • ・公認会計士:会計・監査の専門知識があることの証明
  • ・税理士:税務面でのアドバイス能力
  • ・証券アナリスト:企業分析・評価に関する専門知識
  • ・中小企業診断士:経営コンサルティングの基礎知識
  • ・MBA:経営戦略・財務戦略の総合的な知識
  • ・英語資格:TOEIC800点以上、外資系では必須レベル

3.3 推奨される業界経験

  • ・監査法人での監査経験
  • ・投資銀行での経験
  • ・事業会社での財務・経理経験
  • ・コンサルティングファームでの経験
  • ・金融機関での法人営業・融資経験

4. キャリアパスと成長段階

役職経験年数主な業務内容年収目安
アナリスト0-3年データ収集・分析、資料作成、モデリング500-700万円
シニアアナリスト3-5年分析業務の主導、ジュニアメンバーの指導700-1000万円
マネージャー5-8年プロジェクト管理、クライアント対応1000-1500万円
シニアマネージャー8-12年複数プロジェクト管理、営業支援1500-2000万円
ディレクター12年以上事業開発、営業、組織運営2000万円以上

5. 転職準備の具体的ステップ

5.1 基礎知識の習得(転職活動開始の3-6ヶ月前)

  • ・財務会計の基礎学習:簿記2級レベルの知識を習得
  • ・企業価値評価の基礎:DCF法、比較評価法の基本的な理解
  • ・M&A関連書籍の読破:業界の基本的な流れと用語の理解
  • ・業界研究:主要ファームの特徴、サービス領域の把握

5.2 実践的スキルの向上(転職活動開始の2-3ヶ月前)

  • ・Excelスキルの向上:財務モデリング、関数の高度な活用
  • ・PowerPointスキル:プロフェッショナルなプレゼンテーション作成
  • ・ケーススタディの練習:実際の案件を想定した分析練習
  • ・英語力の向上:外資系を目指す場合は特に重要

5.3 応募書類の準備(転職活動開始の1-2ヶ月前)

  • ・履歴書・職務経歴書の作成:FAS業界向けにカスタマイズ
  • ・志望動機の明確化:なぜFAS業界を選ぶのかを論理的に説明
  • ・自己PRの準備:保有スキルと経験をFAS業界でどう活かすか
  • ・転職エージェントへの相談:業界専門のエージェントを活用

6. 面接対策のポイント

6.1 頻出質問への対策

  • ・「なぜFAS業界を志望するのか」:具体的な理由と将来のビジョンを明確に
  • ・「これまでの経験をどう活かすか」:過去の経験とFAS業務の関連性を説明
  • ・「M&Aについてどう思うか」:業界の基本的な理解と自分の見解
  • ・「企業価値をどう評価するか」:評価手法の基本的な理解

6.2 ケース面接対策

FAS業界の面接では、実際のビジネスケースを用いた問題解決能力を測る場合があります。以下の点を意識して準備しましょう。

  • ・問題を構造化して整理する能力
  • ・限られた情報から合理的な判断を下す能力
  • ・財務的な観点から分析する能力
  • ・結論を論理的に説明する能力

6.3 逆質問の準備

  • ・「貴社の強みと他社との差別化ポイントは何ですか」
  • ・「入社後のキャリア開発プログラムについて教えてください」
  • ・「現在注力している事業領域はありますか」
  • ・「チームの構成と役割分担について教えてください」

7. 未経験者が知っておくべき業界の特徴

7.1 働き方の特徴

FAS業界は、案件ベースでの業務が中心となるため、プロジェクトの進行状況や締切に応じて業務量が変動します。繁忙期には長時間労働となる場合もありますが、案件の合間には比較的余裕のある時期もあります。また、クライアント企業での常駐業務も多く、様々な業界・企業での経験を積むことができます。

7.2 報酬体系

FAS業界は、一般的に高い報酬水準となっています。基本給に加えて、成果に応じたボーナスが支給されることが多く、優秀な人材には相応の処遇が用意されています。また、昇進も比較的早く、実力次第では短期間での昇格も可能です。

7.3 キャリア発展性

FAS業界での経験は、その後のキャリアにおいて非常に価値の高いものとなります。投資銀行、プライベートエクイティ、事業会社のM&A部門、独立してのアドバイザリー業務など、多様なキャリア選択肢があります。

8. 主要なFASファームの特徴

8.1 Big4系アドバイザリー

PwCアドバイザリー、EYストラテジー・アンド・コンサルティング、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー、KPMGアドバイザリーなど、Big4会計事務所のアドバイザリー部門は、豊富な案件数と幅広いサービス領域を持つことが特徴です。

8.2 投資銀行系

野村證券、大和証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などの投資銀行は、特に大型M&A案件に強みを持っています。

8.3 独立系アドバイザリー

フロンティア・マネジメント、山田コンサルティンググループ、AGSコンサルティングなど、独立系のアドバイザリーファームは、特定領域に特化した専門性を持つことが多いです。

9. 転職成功のための重要なポイント

9.1 継続的な学習姿勢

FAS業界は常に新しい規制、会計基準、市場動向に対応する必要があります。入社後も継続的に学習し、専門知識をアップデートしていく姿勢が重要です。

9.2 ネットワーキングの重要性

FAS業界では、人脈が非常に重要な役割を果たします。業界イベントへの参加、専門家との交流、同業者とのネットワーク構築を積極的に行うことが、キャリア発展につながります。

9.3 チームワークの重視

FAS業務はチームでの作業が中心となります。異なる専門分野のメンバーと連携し、プロジェクトを成功に導く能力が求められます。

10. まとめ

FAS業界への転職は、高い専門性と豊富な経験を要求される挑戦的な道のりですが、同時に大きな成長機会とやりがいを提供してくれる魅力的な業界です。未経験者であっても、適切な準備と学習を通じて、必要なスキルと知識を身につけることは十分可能です。

転職成功のためには、まず業界の基本的な理解を深め、必要なスキルを計画的に習得することが重要です。また、面接対策や応募書類の準備も怠らず、自分の経験と志望動機を明確に伝えられるよう準備しましょう。

FAS業界は今後も成長が期待される分野であり、優秀な人材に対する需要も高まっています。しっかりとした準備と強い意志を持って臨めば、必ず道は開かれるでしょう。この機会を活かし、新しいキャリアステージでの成功を目指してください。